新紀元社 / Shinkigensha

私達、欠魂しました

私達、欠魂しました

シリーズ名:モーニングスターブックス
著者:守野 伊音
イラスト:鳥飼 やすゆき
定価:本体1,300円(税別)
四六 308ページ
ISBN 978-4-7753-2063-1
発行年月日:2023年01月23日
在庫:在庫あり

この本を注文する

  • バナー
  • バナー
  • バナー
  • バナー
  • バナー
  • バナー
  • バナー

本の紹介

あなただけ――あなただけがこの地獄のような世界の光

死ぬために生き続ける不遇の王子と笑顔を忘れた魔術師が織り成すファンタジーラブストーリー

「必ず、第一王子を殺すんだ」
あなたの声を覚えている――

 娼婦を母に持つその出自から正妃に疎まれ、常に命の危機に晒され続けてきたセノレーン王国第一王子オルトス。国軍に所属する魔術師の少女エリーニは、白昼堂々、王城内で暗殺未遂に遭ったオルトスを庇ったことから、二人揃って“欠魂”してしまう。同時に欠魂した弊害で互いが四歩以上離れると意識を失う事態に陥った二人は、行動を共にしつつ魂を修復する方法を模索し始めるが――。

「エリーニ・ラーニオンです、王子。どうぞお見知りおきください」
「エリーニ・ラーニオン⁉」
王子との距離が一気に近づいた。机を乗り越える勢いで身を乗り出した王子の髪が私の頬を擽くすぐる。
目の前で星が散ったような気がした。
「ここ数年よく名前を聞いたが、そうか、お前だったのか! 十五歳と聞いていたが、そうか、確かに若い!」
初めて、初めて王子の瞳に光が入ったように思えた。
それまで、どれだけ怒鳴っていても、笑った顔をしていても、どこか冷めていたこの人の色に熱が灯された。
「雷雨のおかげで前線に出されず済んだ。あれは本当に助かったぞ! 感謝する!」
子どものようにはしゃぐ王子が言っている雷雨とは、私が開発した兵器だ。
この国は一年前まで隣国リューモスと戦争をしていた。

「イェラ・ルリック」
二人の話が一段落したのを見計らい、声をかける。驚いた顔で振り向いた王子とは対照的に、イェラ・ルリックの顔に感情は見られない。
私も似たようなものなので、怯みや恐れは感じなかった。
「ご相談があるのですが」
「何だ」
「王子にはご内密に」
「この距離で⁉」
王子のぎゃんっとした鳴き声が響いたけれど、防音の魔術を張っているおかげで音は私達の周辺を回っただけだった。
イェラ・ルリックは黙って私を見下ろしていたが、やがて一つ溜息をつき、僅かに身を傾けた。おかげで声を届けやすい。失礼しますと前置き、その耳に口元を寄せる。

関連商品

ページのトップへ